重要文化財
柿本人麿像 詫磨栄賀 筆 性海霊見 賛
かきのもとひとまろぞう たくまえいがひつ・しょうかいれいけんさん
- 絹本着彩 84.3cm×41.3cm
- 南北朝‐室町時代 14世紀
No.13001
本図は、歌仙と呼ばれ古くから歌人たちの尊崇を集めた柿本人麿を、なえた烏帽子をかぶり身体をやや斜にして脇息にもたれ、肩をひそめてはるか遠方をみやりながら苦吟をする姿でとらえている。筆者の詫磨栄賀は、伝記は詳らかでないが、大和絵系の絵仏師として育ち、次第に時流に乗って水墨画にも筆を染めていったとされる。現存作品の多くは、南宋仏画の様式を取り入れた彩色仏画の伝統に基づくもので、岩や樹木の描写に多分に水墨画的描法が用いられている。それら諸図に比べると、本図はより大和絵的要素を残す作品といえるが、細部手法や描線には、他作品の人物表現と一致するところが認められ、同一筆者のものとしてとらえられている。賛者の性海霊見は東福寺の43世住持職を務めた禅僧である。画賛中には「東福寺四十三世性海霊見八十一歳」とあり、応永2年(1395)の年代が知られる。本図の存在によって、公家社会において歌道上達のために礼拝対象とされてきた人麿像が、14世紀に至り、禅林における五山詩僧たちの文芸趣味と結びつき、同様に崇拝された事実を知る上でも興味深い作品とされている。
