米色青磁瓶
べいしょくせいじへい
- 官窯 高21.6cm 底径10.1cm
- 南宋時代
中国南宋時代(12-13世紀)、浙江省杭州には宮廷用の陶磁器を焼くための窯、官窯が置かれた。そこで焼かれた青磁のうち、酸化炎焼成によって黄褐色に焼きあがったものを、稲穂の色にたとえて米色青磁とよぶ。現在米色青磁とされている青磁は世界に4点、すべて日本にあり、本作はそのひとつである。日本で下蕪(しもかぶら)形とよばれるこの形は、もとは中国古代の金属器に倣ったもので、宋代の墓から青銅器や銀器の出土が知られ、宋時代にこの形の流行があったことがうかがわれる。この瓶は形にゆがみがあり、頸が一方に傾いている。また全体を覆う淡黄褐色の釉は胴裾部の一部でぽっと青く窯変しており、窯内の焼成状態が還元と酸化の間で変化したことがわかる。形も釉色も不完全な瓶でありながら、それでもなお今まで伝世してきたところに、この作品に美を見いだした何らかの存在を感じる。現代の眼でみたとき、その魅力はなんといっても淡黄褐色の釉一面にうかぶ二重貫入の妙であろう。垂直に入った褐色の貫入の間に、氷に生じる亀裂のような透明の貫入がさらに畳重なるように入る様子は非常に美しい。還元炎による青の青磁と酸化炎による米色とでは、米色のほうが二重貫入が出やすい傾向にあるが、この瓶は米色のなかでも殊に二重貫入がわかりやすい。
掲載図書
『常盤山文庫名品選 墨の彩り』常盤山文庫、2003年(解説 西田宏子)
常盤山文庫中国陶磁研究会会報1『米色青磁』財団法人常盤山文庫、2008年(解説 佐藤サアラ)
『南宋の青磁―宙をうつすうつわ』根津美術館、2010年(解説 佐藤サアラ)
『常盤山文庫と町田市立博物館が語る 中国陶磁うつくし』町田市立博物館、2016年(解説 佐藤サアラ)
『常盤山文庫創立80周年記念名品選 蒐集のまなざし』公益財団法人常盤山文庫、20123年(解説 三笠景子)
佐藤サアラ「日本における青磁賞翫史 常盤山文庫所蔵南宋青磁を通して」『國華第1534号 特輯 常盤山文庫の宋元美術』國華社、2023年